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ーローラが教えてくれた「磨くこと」ー

緊急事態宣言が出されてから、一週間以上が経ちました。

 

朝、起きて、予定がない。という日常にしばらく慣れず、今までの暮らしがどんなに忙しかったのかと、顧みる時間にもなっています。

 

相変わらずの休校なので、一日三食を作り、食べては片付け、食べては片付けの繰り返し。本当にシンプルだなぁと日々感じています。

 

私は、毎日の暮らしのなかで自分に課す「小さな挑戦」が好きなのですが、その挑戦は、すぐに続かなくなってしまうこともあるし、それが習慣になることもあります。

 

例えば、家にいるようになってから、ふと思い立った挑戦が「トイレを磨く」でした。

 

この「トイレを磨く」は「トイレを掃除する」とは似て非なるもの。きっかけは、今、シリーズで読み返している「大きな森の小さな家」シリーズの中の一冊「大草原の小さな町」です。このお話しは、インガルス一家が町に住むようになってからの話なので、父さんの猟などの話は出てきません。けれど、畑を作り、牛や鳥や豚を飼い、暮らしに必要なものはできるだけ手作りです。けれど、インガルス一家にとって「働いてお金を稼ぐ」という大きな転換期を迎えています。猟や罠で取ってきた動物を保存食にしていた時代とは大きく異なり、「お金を稼ぐ」ということが町では必要になってくる。この変化はきっと相当なもので、読みながら深く深く考えさせられる内容にもなっています。

 

この本の第二章~払い下げ農地の春~の中に、詳細に家の仕事をするシーンが出てきます。それが、「春の大掃除」のシーン。日本はお正月オ迎えるために冬に掃除をする習慣がありますが、ヨーロッパやアメリカなどには、冬の寒い時期を避け、春の暖かい風が吹いてから家中の窓を開け放ち、掃除をするという習慣があります。このインガルス一家の大掃除の様子が大好きで、家事のやる気が起きない時には、その部分だけ読み返すほど(笑)。

 

―みんなでカーテンとかけぶとんを洗ってひろげてほした。新しい窓もつやつや光るまで洗い、新しいカーテンをかけた。(中略)母ちゃんとローラは、木の香も新しい板でできた、新しい部屋にベッドの台をおいた。ローラとキャリーはわらぶとんのかわの中に、ほし草の山のまん中から出した一ばんつやのある草をいっぱい入れた。こうして母ちゃんのアイロンの温もりのまだ残っているシーツと大草原の香りのこもった清潔なかけものでベッドを作った。それがすむと母ちゃんとローラはいま、表へ向いた古いほうの部屋をすみからすみまでみがきをかけた。この部屋はいま、ベッドがなくなって、料理ストーブと、戸棚とテーブルといすだけになって広々した。すっかりきれいになって整理整頓が終わると、みんな感心して部屋の中を眺めた― 大草原の小さな町 L・I・ワイルダー作 鈴木哲子訳 

 

この掃除の様子に、うっとりしませんか?なんと心躍る大掃除だろう。なんて素敵な一家なんだろうと。この中にも出てくる「部屋を磨く」という様子、実は幼い頃はあまりピンときませんでした。私たち日本人が行ってきた掃除は「掃く」「拭く」が中心ですものね。けれど、諸外国の物語にはこの「磨く」という表現が数多く使われており、ずっとずっと不思議に思っていました。

 

その謎が解けたのは、じつはジブリのアニメです。「魔女の宅急便」の中に、主人公のキキちゃんが、パン屋の二階を借りて住むようになった時、ブラシのようなもので床を磨いているのをみて、「あ、これだ!」と膝を打ちました。宮崎駿さん、ありがとう(笑)。部屋を磨くって、こういうことか!と大きく納得したのでした。

 

「掃除をする」というのは、なんとなく必要に駆られるから行う行為で、「磨く」というのは、必要最低限の行為ではありません。ぴかぴかになるまで、磨く。光らせる。といのはその「在りよう」を示す言葉なので、部屋を磨くと聞くと、それが美しい行為に感じるのでしょうね。きっと。

 

そう。今、家にいることが多くなった日常のタイミングで、試しに、隅から隅までトイレを磨いてみたのです。トイレを掃除するのではなく、トイレを美しくすることが目的の行為。もうこれが本当に気持ちがいい。それを朝にしてみると、本当に清々しい気持ちで一日を迎える準備が整うのです。

 

緊急事態宣言で行動が制限されるなか、私には家の仕事がある。家の仕事に心込めることで、家にいる時間が特別なものになりました。物語のチカラに、やっぱり救われているなぁと感じる毎日です。