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ー誰かを「羨ましいな」と思ったら、ハリー・ポッターを読む③ー

前回前々回と、書かせていただいたハリー・ポッター。

いよいよ、最終巻になりました。

ネタばれも含みますので、まだ、読んでいない方はご注意くださいね。

四巻以降、ハリーの人生は、ひとつの運命に向かって動きはじめます。

ヴォルデモート卿を打ち砕く、選ばれしもの。

そう。生きていくことそのものが、ハリー以外の人物によって、幾重にも仕掛けられた罠のように、ハリーに絡みついてきます。

いや、生まれついた時から。
ハリー自身の知らないところで。
その宿命と言う名の砂時計の砂は、すでに落ち始めていたのです。

ロン、ハーマイオニーと共に、謎を解いて行くのですが、最後には余りにも過酷な宿命が、ハリーを待っています。

最終章である、ハリー・ポッターと死の秘宝。

この最終巻が発売されたとき、「これが、最後なんだ」と、物語の扉を、開きたいのか、開きたくないのか、自分でもわからないジレンマを抱えましたっけ。

ハリーは、魔法界での成人を果たし、ダーズリー一家とお別れをします。

これは完全に、マグルの世界との決別。つまり、ハリーは、もう誰の庇護のもとにもいられないことを示しています。

 

自分で人生を選択していくことを示唆した、物語のはじまり。

冒頭から、苦しいことの連続です。

 

そんなハリーは、ホグワーツに戻らないことを決め、ダンブルドアとの約束でもある、分霊箱を探す旅に出かけます。

 

ロンとハーマイオニーと共に。

 

ところが、分霊箱なんて、そんな簡単に見つかるものではありません。

旅先でも苦難の連続は、ハリーよりも幼いロンを襲います。

 

ついに我慢ができなくなったロンは、2人を置いて、逃げ帰ってしまうのです。

 

なんて、勝手な!と、思わずにはいられませんが、ずっと、愛情あふれるウィーズリー一家に守られてきたのですから、仕方のないことかもしれません。

 

死を覚悟しながら戦ってきたハリーと、頭の良さから、これがどういった旅かがわかっているハーマイオニーとは、ロンは違います。

 

 

「五つ星の高級ホテルに泊まれるとでも思ったのか?一日おきに分霊箱が見つかるとでも?クリスマスまでにはママのところに戻れると思っていたのか?」

 

そう問い詰めるハリーに、ロンはこう言います。

 

「僕たちは、君が何もかも納得ずくで事に当たっていると思っていた!」

 

自分で決めたと、ロン自身が思っていたことも、この言葉で根本的に違ったことがわかります。

つまり、ハリーが解決するものだと、心の底では思っていたのです。

ハリー自身の問題だと。

 

けれども、普通の17歳ですもの。

日英の差はあれど、こんな考えを持ってしまうのは、当然かもしれません。

 

けれども、このときに、ハリーとロンには、永遠に埋まらない溝があるのだとも感じます。

 

ハリーはロンにはなれないし、ロンもハリーにはなれません。

 

ロンもきっと、激しく落ち込み、自分自身の情けなさに、嫌気がさしたことでしょう。

 

実際に、その後戻ったロンは分霊箱を破壊する際に、自分自身の心の弱みと対峙します。

 

この弱みが、喧嘩して戻ってきた後も同じく、「ハリーへの劣等感」なのですから、人間はそんなに簡単に成長するものではないと、感じてしまいます。

 

この、ハリーへの劣等感は、ロンにとってはの一生の友だちなのです。

ハリーと、友達でいる限り。

 

けれども、この劣等感は、頑張ればなんとかなる劣等感ではないところが、ロンの救いでもあります。

 

生まれながらに、魔法界のヒーローとなるべくして生まれたハリーは、どうしたってハリーなのです。

 

けれども、その親友は、ロナルド・ウィーズリーただ一人なのです。

 

ハーマイオニーは大切な友人だけれど、ロンとは違うと、ハリーははっきり感じます。

 

そして、ハーマイオニーの大切な人も、ロナルド・ウィーズリーただ一人。

それは、ハリーではありません。

 

つまり、ロンは、自分の大切な人2人の一番なのです。

 

魔法界の一番にも、兄妹の中の一番にもなれなかったロンが、自分の一番大切な人の一番になれたことは、ロンにしかできなかったこと。

 

幼い心をぶつけながらも、嫉妬をむき出しにしながらも、ロンはひたむきに自分自身を生きた。

 

だから、誰かに嫉妬しそうになったとき、ロンの気持ちでハリー・ポッターを読んでみる。

 

嫉妬や劣等感は、誰もが持っている感情です。

それを、マイナスとするのかプラスとするのかは、自分次第だということ。

 

その嫉妬心が、間違った方向へ行かないように。

嫉妬や劣等感をそのまま受け入れ、それが、どう頑張っても越えられない壁ならば、うまく付き合うしかありませんものね。

 

そして、もう一人、大きな愛と嫉妬の心をうまく向き合わせた人物、スニべルスのプロングスへの嫉妬は、きっとロンのそれとは、くらべものにならなかったでしょうね。

 

裏に描かれた物語の壮大さもまた、ハリー・ポッターを読む楽しみの一つかもしれません。