前回、前々回と、書かせていただいたハリー・ポッター。
いよいよ、最終巻になりました。
ネタばれも含みますので、まだ、読んでいない方はご注意くださいね。
四巻以降、ハリーの人生は、ひとつの運命に向かって動きはじめます。
ヴォルデモート卿を打ち砕く、選ばれしもの。
そう。生きていくことそのものが、ハリー以外の人物によって、幾重にも仕掛けられた罠のように、ハリーに絡みついてきます。
いや、生まれついた時から。
ハリー自身の知らないところで。
その宿命と言う名の砂時計の砂は、すでに落ち始めていたのです。
ロン、ハーマイオニーと共に、謎を解いて行くのですが、最後には余りにも過酷な宿命が、ハリーを待っています。
最終章である、ハリー・ポッターと死の秘宝。
この最終巻が発売されたとき、「これが、最後なんだ」と、物語の扉を、開きたいのか、開きたくないのか、自分でもわからないジレンマを抱えましたっけ。
ハリーは、魔法界での成人を果たし、ダーズリー一家とお別れをします。
これは完全に、マグルの世界との決別。つまり、ハリーは、もう誰の庇護のもとにもいられないことを示しています。
自分で人生を選択していくことを示唆した、物語のはじまり。
冒頭から、苦しいことの連続です。
そんなハリーは、ホグワーツに戻らないことを決め、ダンブルドアとの約束でもある、分霊箱を探す旅に出かけます。
ロンとハーマイオニーと共に。
ところが、分霊箱なんて、そんな簡単に見つかるものではありません。
旅先でも苦難の連続は、ハリーよりも幼いロンを襲います。
ついに我慢ができなくなったロンは、2人を置いて、逃げ帰ってしまうのです。
なんて、勝手な!と、思わずにはいられませんが、ずっと、愛情あふれるウィーズリー一家に守られてきたのですから、仕方のないことかもしれません。
死を覚悟しながら戦ってきたハリーと、頭の良さから、これがどういった旅かがわかっているハーマイオニーとは、ロンは違います。
「五つ星の高級ホテルに泊まれるとでも思ったのか?一日おきに分霊箱が見つかるとでも?クリスマスまでにはママのところに戻れると思っていたのか?」
そう問い詰めるハリーに、ロンはこう言います。
「僕たちは、君が何もかも納得ずくで事に当たっていると思っていた!」
自分で決めたと、ロン自身が思っていたことも、この言葉で根本的に違ったことがわかります。
つまり、ハリーが解決するものだと、心の底では思っていたのです。
ハリー自身の問題だと。
けれども、普通の17歳ですもの。
日英の差はあれど、こんな考えを持ってしまうのは、当然かもしれません。
けれども、このときに、ハリーとロンには、永遠に埋まらない溝があるのだとも感じます。
ハリーはロンにはなれないし、ロンもハリーにはなれません。
ロンもきっと、激しく落ち込み、自分自身の情けなさに、嫌気がさしたことでしょう。
実際に、その後戻ったロンは分霊箱を破壊する際に、自分自身の心の弱みと対峙します。
この弱みが、喧嘩して戻ってきた後も同じく、「ハリーへの劣等感」なのですから、人間はそんなに簡単に成長するものではないと、感じてしまいます。
この、ハリーへの劣等感は、ロンにとってはの一生の友だちなのです。
ハリーと、友達でいる限り。
けれども、この劣等感は、頑張ればなんとかなる劣等感ではないところが、ロンの救いでもあります。
生まれながらに、魔法界のヒーローとなるべくして生まれたハリーは、どうしたってハリーなのです。
けれども、その親友は、ロナルド・ウィーズリーただ一人なのです。
ハーマイオニーは大切な友人だけれど、ロンとは違うと、ハリーははっきり感じます。
そして、ハーマイオニーの大切な人も、ロナルド・ウィーズリーただ一人。
それは、ハリーではありません。
つまり、ロンは、自分の大切な人2人の一番なのです。
魔法界の一番にも、兄妹の中の一番にもなれなかったロンが、自分の一番大切な人の一番になれたことは、ロンにしかできなかったこと。
幼い心をぶつけながらも、嫉妬をむき出しにしながらも、ロンはひたむきに自分自身を生きた。
だから、誰かに嫉妬しそうになったとき、ロンの気持ちでハリー・ポッターを読んでみる。
嫉妬や劣等感は、誰もが持っている感情です。
それを、マイナスとするのかプラスとするのかは、自分次第だということ。
その嫉妬心が、間違った方向へ行かないように。
嫉妬や劣等感をそのまま受け入れ、それが、どう頑張っても越えられない壁ならば、うまく付き合うしかありませんものね。
そして、もう一人、大きな愛と嫉妬の心をうまく向き合わせた人物、スニべルスのプロングスへの嫉妬は、きっとロンのそれとは、くらべものにならなかったでしょうね。
裏に描かれた物語の壮大さもまた、ハリー・ポッターを読む楽しみの一つかもしれません。