切手の肖像画。
マッチ箱でこしらえたたんす。
チーズおろしのおろし金の部分を使った木の扉。
台所の湯沸かし器に穴をあけて「借りた」お湯で入るお風呂。
こまかいロウソクのかけらを燃料におこす火。
じゅうたん変わりのすいとり紙。
「借りぐらし」の描写がたまらなく愉快で、なんどもその場所を読んではチーズおろしと大根おろしの違いを想像しましたっけ。
今日ご紹介するのはこちらの本。
床下の小人たち
メアリ―・ノートン作
林 容吉訳
岩波少年文庫 発行
約10年前に公開されたスタジオジブリの作品【借りぐらしのアリエッティ】でもおなじみな小人シリーズ物語の原作です。
イギリスの古い家の床下に住む小人たちは、人間から物を「借りて」暮らしを立てています。私たちが、モノをなくすのはきっとそのせい。
確かに。安全ピンや消しゴム、ヘアピンなどはよく私の前からいなくなります。
ある時から、モノを無くしたときにはアリエッティが持って行ったと思うようにしているのですが(当たり前に言うところがこどものまんまです・・・・・・)、私の目の前から消えたものが、小人たちの暮らしのどこかに役立てられているんだと思うと、なんだかうれしい。
それくらい、床下小人たちの暮らしは、楽し気で工夫に満ちています。
幼い頃は、その暮らしの描写のみずみずしさにしか気づかなかったのですが、この物語は床下小人たちが社会的弱者であることを浮きぼりにしています。
私たちはアリエッティたちが、映画版のセリフにあった「ほろびゆく種族」であることを、物語のなかで目の当たりにします。
それらの困難を「工夫」で乗り切るところが、この物語の面白いところ。
彼らは小さいこと以外は人間と同じ。魔法を使えない事実が、ファンタジー作品でありながらリアルを感じ、思わず床下を覗いてしまいたい衝動に駆られてしまう。そんな作品です。
ずっと床下で暮らしいた床下小人のアリエッティが、初めて床下から外に出るとき。私たちは、アリエッティと同じように、冒険に繰り出すことができます。
―おお、走りながら足のつたわる石のぬくもり・・・・・・顔や手にあたる、うれしい陽の光・・・・・・上や、まわりの、おそろしいほどのひろがり!―
アリエッティの感激や嬉しさが伝染するように、私たちも一緒に小人になることができる。
是非、映画を観た後は原作を読んで欲しい一冊です。